観客(若い女性)が探している運命の相手、立花瀧という願望成就装置に託される破滅と復活は現実世界になにをもたらすか?

 今回は、作中の主人公である立花瀧について考えてみることにしましょう。そのためには、作品についてのネタバレをしつつ、本編の内容を考察する必要があります。

 第1回では、『千と千尋の神隠し』と『君の名は。』が、どちらも名前を探すという名目で、自分が誰であるかを教えてくれる人を探しているという日本人が抱く特有の問題がヒットの原因ではないかという話をしました。

 そして、第3回では、『シン・ゴジラ』と『君の名は。』から、探しているのは恋人ではなくて、実は政治的な領域の人物ではないかという話をしました。

 第3回の疑問を解くためには、『君の名は。』における、立花瀧がどういう人物なのか、劇中の役割から考えてみたいと思います。

 まず、瀧が選ばれた理由ですが、それはすでに明らかにしたように、瀧という名前がさんずいと龍で、龍は神であり、ヒロインの苗字は宮水で、宮は羊水と関係があると同時に、神社は女性器と関連があるということで、『君の名は。』という作品らしく、2人の名前が重なり合っているわけです。

 さて、ここからネタバレになりますが、瀧は、ヒロインの三葉がティアマト彗星が2つに分裂した破片が落ちてきたときに死んだことを知り三葉を助けようとします。

 瀧が再度三葉と入れ替わるためには口神酒を飲む必要がありました。この口噛み酒は3年前の三葉が一度口に含んでから出したもので、それを飲むということは間接キスをしたということになります。

 これまで2人は入れ替わりによって互いの体を知り尽くしてはいましたが、自分の体で相手の体と接触することはありませんでした。口噛み酒を飲んだ時、2人は初めて物理的に交わることができたのです。

 これは、いわゆる男女の結合という儀式だと言えます。それは、ともに水と神龍と関係のある2人が一つになるためのものです。口噛み酒は、口神酒とも読めます。つまり、それは口を通じて神とつながるための媒介と言えます。すべての始まりは、神社で三葉が「来世は東京のイケメンにして」といったところから始まっています。作品は、終始神様に導かれて進んでいることをこうした設定から理解できるようになります。ご都合展開と言われるものも、背後には願いを叶えようとする神様と、結びのルールがあるということで一応説明されています。

 ともかく、それで再び入れ替わった瀧は、周囲を煽って避難させるように準備をし、すべての事情を知った三葉と再度入れ替わって500人以上の死者は救われます。

 物語全体を振り返ると、まるで瀧は三葉と町の人に危機を知らせるためだけに存在したように感じられます。それが瀧の役割なのです。

 瀧と三葉は入れ替わり、そして最後には交わります。それは神様にお願いしたことで実現しており、実は作品はすべて三葉の願いから始まり、完結しています。三葉はこのとき、「来世は」と、死を暗示することを願っており、それが三葉を彗星落下による死にいざないます。それと同時に、「東京のイケメン」になるという願いも実現します。そして、最終的には

 本作の実際の主人公は宮水三葉の方で、三葉の願いが実現される過程を描いた作品と言えます。それは運命といえば運命ですが、願いが実現しただけといえばそれもそうです。

 つまり、すべては三葉の夢だった。しかし、最後には視点が瀧の視点になり、ここからもう一つ別の物語が始まることを予感させて終わります。『君の名は。』は、三葉の願いが実現する夢の話で、ここまではもしかしたらすべて夢だったのかもしれません。しかし、最後に瀧が主人公として、新しい物語が始まる。それはこれから描かれる観客と瀧の物語なのです。

 以上、全体を一応それっぽくまとめていました。しかし、これではなにか足りない感じがします。三葉の視点からこの作品を通してみると、瀧という存在は願いを叶えるための舞台装置にすぎません。言い換えると、瀧というのは神様が三葉のために用意した三葉の願いを叶えてくれる救世主のような存在です。

 女性の観客が多いのは、この作品の本当の視点が三葉だからですが、彼女たちは瀧という存在から、自分の願いを叶えてくれる救世主と神様を感じ取っているのかもしれません。瀧という女性の願いを叶える救世主は、自分を死から救い出してくれる存在でもあります。それと同時に、三葉はいまの状況に満足しておらず、破滅願望を抱いています。この2つが混ざり合った結果が、「来世は東京のイケメンにして」という願いとなり、『君の名は。』という作品になって体現しています。

 観客の女性たちは、三葉の視点で、瀧という救世主、願いを叶えてくれる男のことを見ています。それが彼女たちの願望です。しかし、それは現実にいないからこそ、アニメ映画という虚構の世界で一層強く求められるのです。

 問題は、これほどまで若い女性たちが、自分の願いがかなわない、運命の相手がいないと思い込んでいる現実の世界の方です。それは第2回の記事で書いたような、彼女たちが置かれている経済的、社会的状況が関わってきますが、それだけではないでしょう。

 では、彼女たちが求めているのは一体なんなのか。それこそ、破滅と復活という神話的な構造の願いです。観客である彼女たちはなにも、イケメンで優しい王子様を見つけたいわけではないのです。彼女たちは確かにイケメンを求めているし、優しさや、経済的甲斐性を実は求めているのかもしれないけれど、そういう身もふたもないことは主人公を高校生にすることでイケメンのみに絞って書かれています。しかし、瀧はいわゆる王子様ではありません。

 彼女たちは、自分を幸せにしてくれる王子様ではなく、自分を閉じ込めている世界から救い出す、救世主のような存在を求めているのです。だからこそ、「来世は東京のイケメンにして」と願うのであって、もしも三葉が豊かな生活がしたいと願うならば、この作品は若者に支持されなかったでしょう。そして、だからこそ経済的にうまくいっていない若い男性も心地よく見ることができるのです。この作品の美少女は経済的な甲斐性などを求めてこないので、男性は三葉はかわいいと素直に思うのです。ついでにいうと三葉が実はイケメンを求めているわけですらないことに男性たちは安心感を抱きます。だって、イケメンに入れ替わっても、鏡でもなければ自分の顔なんて見えないし。

 問題は、実は第2回で述べたことだけではなく、いまの状況の根本的な破滅と再生、これがいまの若者を覆う空気であり、願いなのだとわたしは確信しています。

 「来世」を願う三葉は、すでに現世をあきらめています。この達観こそが、いわゆるさとり世代の時代認識です。彼らは現世が終わってほしいと願っているのです。ネットで発表される作品で売れるのは「異世界転生もの」なのです。もっとましな時代に転生したい、そう願っているからこそ三葉の願望を成就するこの作品が若い世代に支持されるのです。

 現代ビジネスの別記事で、興味深い一言を述べています。


 歪んでいるかもしれないが、筆者は『君の名は。』をみながら、「並行世界」のなかで東京に同様に彗星が落ち壊滅することを期待していた。

『君の名は。』が、感動のウラで消し去ってしまったもの 無邪気にこの作品を楽しむことへの疑問

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49807)


 この書き手は東京を地方が救う話に飽きているようですが、この作品に仕込まれた本当の願望は、救済ではなく破滅なのです。

 その証拠に、この作品では彗星が落ちてくるのを止める話にはなりません。破滅はそのままで、被害だけ減らそうとしているのです。それは、破滅願望を抱きながら、それをうまくごまかそうとしているようにも見えます。「破滅してほしいが、そういうと悪い人のように見えるから言えない」とでも言いたげです。

 わたしたちは3・11を思い出しながらなにを考えるのでしょうか? あんな災害は起こらないでほしいと願うのでしょうか? それとも、もっとも大きな災害が起こってほしいと願うのでしょうか? 『シン・ゴジラ』と『君の名は。』のヒットは、後者が正しいことをこれ以上ないほど証明しています。

 そして、それは戦争によって破滅をもたらすという願いを現実世界で持ちかねない危険と隣り合わせの感情です。戦争以外に破滅と復活をもたらすものがないならば、いまの若者たちは、それが自分たちにとって不都合でも、戦争にいくのでしょう。一部は喜んで、多数は同調圧力に負けて仕方なく。わたしが問題視しているのはまさにこの点です。

 別に戦争でなくてもかまいません。地震、台風、経済恐慌、テロ。なんでもいい。ただし、それは宮水三葉が抱き、観客が共感したように、「来世は東京のイケメンにして」という自らの死と再生の願いに見合う規模、ティアマト彗星の落下クラスでなければなりません。つまり、第三次世界大戦……。彗星の代わりに核が落ちてくる未来……。

 なんでわたしがこんなに若者の心理に詳しいのか、って? 若者は前から破滅願望を抱きがちな存在なのですよ。「希望は戦争」というのは一昔前のフレーズですが、いまでも十分通用します。昨年の安保法制反対デモのように、若者の一部にとって戦争は避けるべきものですが、もっと過激な若者たちは戦争に希望を抱くのです。

 わたし個人としては、どうか穏やかなやり方で、若者が幸せになれるような方向性の破滅と再生を願ってほしい、そうした選択肢が政治の場面に出てくればと、思います。いまのままだととんでもなくやばいことになるだろうと若干の不安を感じています。

 記事が予想以上に長くなったので予定外の5回目に続きます。 

にんじんスコール注意報

空からにんじんが降ってきてなにかが変わったらいいなと願っているブログ。 ……というのは冗談。 第三次世界大戦に関することや世界統一政府に向かう陰謀シナリオなどを予想したり、時事ネタなどを書いています。

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